ふるさと納税を利用する人が増え、多額の寄附金を受け取れる地方自治体がある一方で、大都市部では控除額が膨らみ大幅な税収減に悩まされています。
今回は、自治体が抱える問題とそれに対する取り組みについて解説いたします。
ふるさと納税による流出超は1自治体で最大55億円
ふるさと納税の寄附金を受け入れた額よりも控除額が大きくなる状態を「流出超」と言います。
昨年、この流出超になった自治体は462ヶ所、全体の4分の1を超えました。
最大で横浜市の55億円で、ふるさと納税した市民は約11万人になり、前年よりも7割以上増加したそうです。
他にも名古屋市の31億円、東京都世田谷区の30億円と大都市部の自治体が並び、都道府県では東京都の466億円になっています。
その反面、ふるさと納税で多額の寄附金を集めた自治体もあります。前年比73%増の宮崎県都城市(72億円)、長野県伊那市(71億円)、静岡県焼津市(50億円)などいずれも返礼品の特産品などで人気の自治体です。
地方交付税で赤字をカバーできない場合もある
ふるさと納税による赤字額の75%は、地方交付税でカバーされることになっていますが、この地方交付税を受け取れない東京都や東京23区、川崎市などは、流出超の全てが減収となってしまいます。世田谷区では、学校1校分の改築費にあたる税収を失うことにもつながっています。
住民サービスの低下で子育て世代や低年収層に影響がでる
各自治体が住民のために行なっているさまざまなサービスは、税収からも賄われています。このまま流出超がひどくなると、住民サービスの低下にもつながる懸念もあります。
「比較的裕福な人たちが節税することにより、子育て世代や世帯収入の低い家庭が影響を受けて、格差が拡大している」と世田谷区長の保坂区長も苦言をしています。
ふるさと納税の制度では、年収や家族構成などによって自己負担額2,000円で寄付できる上限額が決まっていますが、裕福な層ほど上限額が高く、得をしているということも問題視されています。
なかには、「必要な家電を全てふるさと納税で揃えた」という人もいるようです。
返礼品を新設する自治体も出現
少しでも流出超を抑えたいという思いから今までは返礼品を用意していなかった都市部の自治体でも新たに返礼品を設定するところが増えてきました。
神奈川県藤沢市では、平成29年8月から返礼品を設定しました。
市内の農家が生産した「湘南ポーク」や「桃太郎トマト」のような特産品以外にも市民マラソンの優先参加券や江ノ島周遊のクルージングチケットなども含まれています。
茨城県つくば市では、ロボット特区に認定されていることを全面に打ち出したセグウェイ(電動立ち乗り二輪車)で公道を走るツアーなどを返礼品第1段と設定しました。
他にもJAXA(宇宙航空研究開発機構)やたこ焼き、ようかんの宇宙食、筑波大学のグッズなど「つくば」らしい品物も用意されています。
特産品を送るだけではなく、体験型を通じて観光誘客の増加を狙い、いずれは定住や移住にもつなげられたらという思惑もあるようです。
また、横浜市では市が所有する不動産や資産を活用し、新たな費用負担がほとんどないよう工夫をし、新たな返礼品を設けました。
市営地下鉄・バスの1日乗り放題チケットや、市営動物園の共通年間パスポートなどです。
使い道としては、市内の動物園の動物購入や他園からの貸出、繁殖費用のための動物園基金への積み立てを新たに設定しました。
返礼品をやめた自治体も
埼玉県所沢市では、平成29年度から返礼品をやめました。
その結果、1ヶ月で昨年度は231万円あった寄付がゼロになりましたが、市長の藤本市長は「決断してよかった。自治体は、よその自治体に収められるはずだった税金を奪い合い、納税者はモノを得ることに夢中で本来はふるさとや世話になった場所に感謝や応援をする趣旨だったはずなのに」と言っています。
所沢市では、返礼品の代わりにお礼状などを贈ることにしたそうです。
ふるさと納税の返礼品やその制度に関しては、さまざまな問題があるのは確かですが、だからと言ってふるさと納税が良くないということではありません。
還元率や控除額にだけとらわれず、自ら住む場所を応援するために住所地自治体への寄付をしてみるのもいいかもしれませんね。